2008.01.26 書評:陰陽師
![]() | 陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫) (1991/02) 夢枕 獏 商品詳細を見る |
奇妙な男の話をする。
たとえて言うなら、風に漂いながら、夜の虚空に浮く雲のような男の話しだ。
闇に浮いた雲は、一瞬前も一瞬後も、どれほどかたちを変えたようにも見えないが、見つめていれば、いつの間にかその姿を変えている。同じ雲であるはずなのに、その在様の捕えどころがない。
そんな男の話しだ。
という冒頭で始まるこの小説は、平安時代を舞台に活躍した、あまりにも有名な陰陽師安倍晴明が主人公の物語です。
独特の、強くも無く、かといって弱いわけでもない、独特の流れるような文体で書かれた文章は、まさに夢枕獏のようにとしか表現の仕様が無い世界を演出しています。
事細かに描写しているわけでもないのに、その文字を眺めていると、四季のうつろいを縁側で酒を飲みながら眺めている男二人の姿が、自分がそこにいるかのように感じられる。同じ日本語で、同じ言葉で書かれたものなのに、それを表現するのにはあまりにも言葉の表現力(もしくは私自身の表現力)が足りないと痛感します。
闇が闇として残り、人も、鬼も、もののけも、同じ都の暗がりの中に、時には同じ屋根の下に、息をひそめて一緒に住んでいた時代の物語。お勧めです。
2007.09.05 哀しいまでに運が無い男の、悲しいまでに不器用な生き方

浅田次郎 「憑神」
婿養子として入った家からは追い出され、妻子と無理やり引き離され、同期の友は順調に出世していくが、自分はしがない下級武士。
そんな不幸な主人公が、破れかぶれの神頼みをした神社は、神は神でも「災いの神」を祭った神社だった。
貧乏神、疫病神、死神。
それぞれがそれぞれ最悪の神に憑かれることになった男は、そこで自分の人生の意味を深く考え直すことになる。
といったお話。
もうあらすじだけで主人公の不幸っぷりは十分わかりますが、この小説を読み終わった後には、誰も主人公のことを一概に「不幸」だと言うことは出来なくなります。
頭も切れるし、腕も立つ。何にどうしようもなく運が無い主人公。大抵不運な主人公の物語って、そりゃ運も悪くなるよって性格や行動を普段しているものですが、この主人公はてっ辺からつま先まで「いい人」の見本。
どうしてこれで運が悪くなるのだろうと不思議に思うほど、実直でいい男。融通はきかないけど。
その主人公が悩み、苦しみ、そして最後に出した決断を見た時、鳥肌が立ちました。自分には絶対にまねることの出来ない人の生き様を、こうしてみることが出来るのが小説の楽しみの一つかもしれません。
とにもかくにも、お勧めの小説です。
2007.09.01 映画と人形と人間

映画を見に行かねばならない。死んだ17番目の妹のために。23人の妹がいるが、死ぬのは決まって17番目の妹だ。というくだりで始まるこの本は、序盤からかなりの摩訶不思議ワールドへ突入します。
正直万人にお勧めできる本ではありません(それでも私は大好きですが)。
主人公の妄想とも、現実とも取れない(そもそもこの世界にそれらの区別があるかどうかもわかりませんが)記述と、古書のような表記。
小説という「物」を、文章だけでなく、装丁から外観、構成にいたる「本そのもの」を小説だと定義した場合に始めて一冊の「本」として完成するような作りになっています。
これを読んだ人は、「面白い」「つまらない」と二極化した感想のどちらかを抱くでしょう。
この世界では、自分の常識など通用せず、あるのはただ登場人物たちが魅せる世界のみ。
そんな本が読みたいなら、(ちょっと高いけど)手にとってみるのもいいかもしれません。
ちなみに広義では妹萌え本です。




